水痘(すいとう)・水ぼうそうが定期接種になって3年。
おたふく風邪は、いまだに定期接種になっていません。
最近、おたふく風邪に関する記事が新聞に載っていたということもあり、世間一般的におたふく風邪の予防接種の重要性・必要性が高まってきているように感じます。
親である私たちが子どもの頃は、予防接種を受けるより、その病気、例えば水ぼうそうやおたふく風邪、はしかや風疹などにかかってしまえばいいみたいな風潮でした。
でも実はそれ、とても危険なことだったんです。
昔は、そういった情報・知識を得る場が限られていたということもあり、多くのところで間違った情報が流れていました。
しかし、今はインターネットで簡単に情報を手に入れられるようになり、ありとあらゆる情報を瞬時に得られるようになりました。
でも、来院されたお母さん方に話を聞くと、”逆に情報過多になってしまい、何が正しくて何が正しくないのかわからなくなっている“、という印象を受けます。
健診や問診時に予防接種の話になると
「うちは予防接種は打たないって決めてるんです!」
「予防接種の副反応で○○になるんでしょ?」
と言われるお母さんもいらっしゃいます。
ということで今回は、おたふく風邪について、おたふく風邪の予防接種は任意接種だけど打ったほうがいいのか。
そして、ニュースではおたふく風邪の副反応が怖いとよく報じられるが、同じぐらい怖いおたふく風邪の合併症について、合併症になるとどうなるのかについてお話していきます。
おたふく風邪の予防接種って任意だけど打ったほうがいいの?副反応も怖いが合併症も怖い
おたふく風邪の予防接種って任意だけど打ったほうがいいの?
「おたふく風邪の予防接種って任意接種になってるんですけど、やっぱり打ったほうがいいですか?」
と、患者様から、予防接種のスケジュールを組ませていただく際にたまに聞かれます。
当院・しいの木こどもクリニックの回答としては”打った方がいい“とお答えしています。
2017年10月、中日新聞(都心だと東京新聞)に掲載された記事で、日本耳鼻咽喉科学会の調査で、”2015・2016年の2年間に、全国で300人以上がおたふく風邪で難聴になった“ことがわかったと書かれていました。
また、近畿外来小児科学会研究グループが、2004年~2006年にかけて調査した結果では、”ムンプス難聴は、おたふく風邪にかかった人のうち、1000人の1人の割合でなる“とありました。
そして、その調査に関わった小児科医は、
「ワクチンの副反応で、無菌性髄膜炎(むきんせいずいまくえん)になるのは、1歳で接種したら、1万人に1人程度。おたふく風邪にかかって難聴になるリスクのほうがずっと高い」
と、予防接種の必要性をうたっていました。
少し情報を付け足して整理しますと、
■おたふく風邪の予防接種を打つ
・90%以上おたふく風邪にかからない。
・接種後、1週間~3週間以内に、軽い耳下腺の腫れや痛み、発熱などがある。
・10,000分の1の確率で、おたふく風邪の予防接種を打ったことの副反応により、無菌性髄膜炎になる。
・おたふく風邪にかかったとしても合併症、ムンプス難聴にはなりにくい。
■おたふく風邪の予防接種を打たない
・約70%の確率でおたふく風邪にかかる。
・おたふく風邪にかかった場合、予防接種を打った人よりも多くの割合で無菌性髄膜炎になる。
・1,000分の1の確率で、おたふく風邪にかかった時、ムンプス難聴になる。
こんな感じでしょうか。
ちなみに無菌性髄膜炎は、ほとんど重症化せず、後遺症が残らず治る病気です。
そう考えると、おたふく風邪の予防接種を打って、ムンプス難聴になるリスクを避けたほうがいいのではと私は思うんです。
また、私が読んだ小児科医が書いた記事に
「ワクチンを受けている子が増え、感染症にかかった子どもを診る機会が減り、感染症の怖さを知らない人が増えた。そして、逆にワクチンの副反応のほうが恐ろしいという情報が目に入るようになってしまった」
とありました。
続けて
「不要だと主張する情報、必要だと主張する情報、両方を読んで、偏見ではなく、患者力を身につけて欲しい」
とあり、私は「うんうん」と納得しましたが、皆さんはどうですか?
ニュースなどでは
「おたふく風邪の予防接種を打ったことで、無菌性髄膜炎になった」
と、よく報じられます。
しかし本来は、
「多くの子どもがおたふく風邪の予防接種を打ったことで、ムンプス難聴などの合併症になった子どもが○○%減った」
とあるべきだと思います。
そうでないのはやはり、”任意接種”というところが大きいのではないのでしょうか。
このように、メディアの一方の主張だけを見聞きするのではなく、おたふく風邪の予防接種を打つことのリスク、打たないことのリスク、両方を自分達でしっかりと理解した上で、子どものためにどうすべきかを考えることが大切ですね。
怖いのは副反応だけじゃない!怖いおたふく風邪の合併症
怖いおたふく風邪の合併症について、合併症になるとどうなるのかの前に、少しおたふく風邪についてお話していきますね。
おたふく風邪とは、ムンプスウイルスの感染によって、耳下腺が腫れる病気のことです。
このムンプスウイルスには、接触感染・飛沫感染の両方で感染します。
ということは、病院・公園・スーパーなど、ありとあらゆる場所で感染する恐れがあるということです。
また、保育園や幼稚園に通うようになり、集団生活をする時間が増える4歳頃が最も発症が多く、”学校保健安全法の学校感染症(第二種)”に指定されています。
はい、おたふく風邪と診断されれば出席停止になるんです。
それだけおたふく風邪は感染力が強いってことなんですね。
「おたふくかぜってほっぺたが腫れるだけでしょ?」
まだまだそう思ってる方も多いんじゃないでしょうか。
というのも昔、私がそうだったんです。
うちの娘が幼稚園に通っている時に、ママ友の子がおたふく風邪にかかったので、
「これはいい機会だから、うちの子にうつしてもらおう」
となり、誕生日会で、その子の使ったスプーンで回し食べをしたり、その子の使ったコップで回し飲みをしたりしました。
誕生日会をしてから間もなく、うちの娘が両耳下腺を腫らし、ほっぺた辺りからいつもとは違う顔になり、高熱も出てと、見事におたふく風邪にかかりました。
湿布をほっぺたから耳下辺りにかかるように貼って娘を見守っていたんですが、本当に苦しそうで辛そうな表情をしていました。
娘がおたふく風邪になった時は
「やった、うつった」
などと喜んでいましたが、ホント、重症化せずにすんで良かったと思います。
今思うとゾッとすると同時に、無知な親で申し訳なかったという思いでいっぱいです。
また、そのすぐ後に、上の子が
「耳下辺りが痛い」
と言うので、病院に連れていき、娘(妹)もかかったばかりという状況を伝えると、
「症状は軽いけど、多分おたふく風邪ですね」
という診断を受け、幼稚園を休みました。
おたふく風邪にかかった時の症状を、このように(これぐらいに)想像されている人が多いのではないでしょうか。
でも、おたふく風邪は、合併症になった時が本当に怖いんです。
おたふく風邪で脳炎やムンプス難聴など、様々な合併症を起こした場合、重大な後遺症を残すこともあります。
ここで知っておいてほしいのが、この”難聴“です。
“難聴”という言葉だけ見ると、”聴くのが難しくなる”ということで、そんなにいうほど大したことないと思うかもしれませんが、聞き取れない・聞こえないという”重度難聴”も、同じ難聴です。
両耳が聞こえなくなるというのはまれですが、おたふく風邪の合併症によって、片耳が聞こえない・聞き取りにくくなるという難聴になる子どもの数は、決して少ないとはいえません。
また、ムンプス難聴の予防法はなく、治療をしてもほぼ改善せず、生活に支障が出てしまう方も中にはいます。
その場合、補聴器をつけたり、両耳が難聴になってしまった場合は、人工内耳を埋め込んだりする手術が必要になることもあります。
我が子がそのようなことになってしまうと考えたら、本当に耐えられないですよね。
医療が発達している現代ですが、このように、そうなってしまってからでは遅い・治療法がないという病気もまだまだあります。
副反応・合併症と、全てを理解した上で、予防接種を打つ打たないの判断をすることが重要です。
まとめ
今回は、おたふく風邪の予防接種について取り上げました。
というのも
「任意接種だから」
という理由で、打たない、打たなくてもいいと思っている親御さんが本当に多いんです。
おたふく風邪という病気、本当に軽く見ないでくださいね。
そして、ご自分で色々と予防接種の情報を取りすぎて、不安でわからなくなったり、迷ったりした時は、どうか医師に相談してくださいね。
また、そこで大切なのは、親御さんのこと、お子さんのことをしっかり知ってくれているかかりつけ医をもつことです。
予防接種も信頼できる医師に打ってもらうほうが良くないですか?
かかりつけ医の場合、普段、病気の時のお子さんを見ているので、予防接種前と予防接種後の違いについて、親御さんと同じように気づいてくれるものです。
私自身、予防接種を打つことに肯定的なので、予防接種を打つ前提の文章になってしまいましたが、クリニックで働き、院長の近くで様々な話を聞くことで、予防接種の必要性をヒシヒシと感じています。
当院・しいの木こどもクリニックは、これからも、愛する我が子を守る親御さんのためにも、予防接種の必要性をうたっていきます。